2012年5月31日木曜日

6 資源・食料価格の影響を受ける新興国・資源国経済の課題


6 資源・食料価格の影響を受ける新興国・資源国経済の課題

第1章

 試練を迎えるグローバル経済の現状と課題

第2節

 世界経済危機が顕在化させる各国・地域の諸課題と対応

6 資源・食料価格の影響を受ける新興国・資源国経済の課題

(1)ロシア経済

〔1〕ロシア経済概要

(a)天然資源と個人消費に支えられたロシア経済

 ロシアは面積で世界最大(約1,700万km2;日本の約50倍)、人口で世界9位(1億4,000万人)の大国であり、原油生産量でもサウジアラビアに次いで世界第2位(シェア12.6%)、天然ガス生産量世界第1位(シェア20.6%)、この他にも鉄鉱石、レアメタル、木材など多くの天然資源に恵まれた巨大な資源国である。ロシアの輸出総額の約65%が資源関連で占められ、ロシア連邦予算の歳入の半分近くが石油・天然ガス関連の収入で占められるなど、ロシアは豊富な天然資源に大きく依存した経済となっている(第1-2-6-1図)。

 

第1−2−6−1図 天然資源に大きく依存するロシア経済

 ロシア経済は1998年のロシア金融危機の収束以降、原油価格の上昇とともに2008年夏頃まで目覚ましい成長を続け(第1-2-6-2図)、名目GDPは米国、日本、中国、ドイツ、フランス、英国、イタリアに次いで現在世界第8位154となっている。また、実質GDP成長率は1999年から2008年までの10年間において年平均6.9%の高いプラス成長を続けてきた。


 

第1−2−6−2図 原油価格の上昇とともに拡大するロシア経済

 名目GDPの需要項目別寄与度を見ると、輸出及び個人消費支出がロシアの経済成長に大きく寄与していることがわかる(第1-2-6-3図)。2008年夏までの好調なロシア経済を支えたのは、資源価格高騰による輸出の増加と、堅調な個人消費だったといえる。

 

第1−2−6−3図 GDP成長率と名目GDPの需要項目別寄与度

 多くの新興国同様、ロシアも消費性向が高い。その背景としては、インフレ率の高さが挙げられる。2000年代以降、1990年代前半のようなハイパーインフレ155は落ち着いたものの消費者物価上昇率はほぼ毎年年率10%以上で推移している。他方、銀行預金金利は年利4〜6%の状況が続いており、実質金利はマイナスとなっている(第1-2-6-4図)。このため銀行に預金をしても、タンス預金をしても価値は下がってしまうことから、消費者は貯蓄をせずに消費を増やす傾向にある156


 

第1−2−6−4図 低い実質金利

(b)急速に拡大したロシア人の所得

 急速な経済成長に伴い、ロシア人の所得も拡大している。

 月収が15,000ルーブル(約510ドル、4万6,000円)超の所得階層は、2004年の6.7%から2008年には33.1%(4,700人)と約5倍に拡大し、ロシア人の平均月収は約1万7,200ルーブル(約585ドル、5万3,000円)となった(第1-2-6-5図)。ロシアでは都市部と地方での所得格差が大きく、モスクワでの平均月収は約3万ルーブル(約1,020ドル、9万2,000円)に達している。

 

第1−2−6−5図 所得階層別人口構成の変化

 ロシアでは、軍需産業と資源エネルギー産業以外の産業があまり発達していない中、ロシア人の所得拡大に伴い消費者がより高い品質を求めるため、外国製品・サービスの消費量が増えている。

 自動車市場の動向にも所得の拡大が反映されており、ロシアにおける自動車販売台数は2004年から2008年の間にほぼ倍増している。外国からの輸入車やロシア国内で生産される外国メーカーの自動車が販売台数を伸ばす一方、ロシア国産車の販売台数は伸び悩んでいる(第1-2-6-6図)。

 

第1−2−6−6図 ロシアにおける自動車販売数の推移

〔2〕金融危機の影響

(a)資本流出と株価の下落

 2008年7月下旬の資源価格の急落、8月のグルジア紛争、9月のリーマン・ショックを受けて、ロシア経済は急速に悪化している。グルジア紛争が発生した2008年8月には銀行部門からの資本流出が100億ドルを超え、その後も銀行部門、非銀行部門の双方から資本が流出し続けている(第1-2-6-7図)。また、ロシアの代表的な株価指数であるRTS指数は、2008年5月に過去最高値を記録した後は一方的な下落が続き、2009年1月にはピーク時の約5分の1にまで落ち込んだ(第1-2-6-8図)。

 

第1−2−6−7図 グルジア紛争以降拡大する資本流出

 

第1−2−6−8図 株価指数及び原油価格の推移

(b)財政悪化

 ロシアの財政は石油・天然ガス関連収入に大きく依存しているため、資源価格の下落に伴う財政状況の悪化も著しい。

 財政収支は2008年通年では黒字となったものの、同年秋以降急速に落ち込み、2009年4月29日に大統領が署名した新予算法によると、2009年の財政収支はGDP比7.4%に及ぶ赤字の見通しとなった(第1-2-6-9図)。財政収支が赤字に転じるのは、1999年以来10年ぶりである。こうした状況は、ロシアが対外債務不履行に陥った1998年のロシア金融危機の記憶を呼び起こすが、2008年6月から9月にかけて一時5,000億ドルを超えたロシアの対外債務は、その後返済が進められ、2009年3月には2007年末時点の水準に戻っている(第1-2-6-10図)。このうち2009年中に返済期限が訪れる債務は918億ドル、2010年に返済期限が訪れる債務は727億ドルとなっている。また、2009年5月1日現在3,839億ドルの外貨準備高があることから、ロシアが今すぐに対外債務不履行に陥るとは考え にくい(第1-2-6-11表)。

 

第1−2−6−9図 財政収支(対GDP比)

 

第1−2−6−10図 返済が進むロシアの対外債務

 

第1−2−6−11表 対外債務返済期限

(c)消費と雇用

 消費が堅調であったロシアでは、2008年後半までは小売売上高が前年比2桁の伸びを続けていたが、2008年10月頃から減速しはじめ、2009年2月には1999年以来の減少に転じた。好調だった自動車販売も2008年10月頃から低迷しており、2009年1〜3月期の乗用車販売台数は前年同期比マイナス40%となっている。また、失業率も消費の落ち込みが始まった頃から徐々に増え続けており、今後更に上昇する可能性もある(図第1-2-6-12図)。

 

第1−2−6−12図 小売売上高と失業率の推移

〔3〕ロシア経済回復の鍵はやはり資源

(a)資源の戦略的活用に向けて

 今後とも世界のエネルギー需要は増加することが見込まれており、原油や天然ガスの価格は中長期的に上昇する見通しである。ロシアは、2000年代以降、自国経済に繁栄をもたらした天然資源の重要性を強く認識し、その資源の戦略的活用に向けて動き始めている。

(i)資源管理の動き

 世界各国で資源争奪戦が活発化する中、ロシア政府は2008年5月に戦略産業分野における外資規制を導入した。その中には原子力関連産業、航空宇宙産業などと並んで地下資源の採掘に対する外資規制も含まれている(第1-2-6-13表)。また、近年、中央アジア諸国の資源がロシアを経由せずに欧州や中国へ向かうパイプラインを敷設する動きが見られるなか、これに対抗するために、ロシアは中央アジア産天然ガスの買い取り価格を引き上げた他、中央アジア諸国との間に新規パイプラインの建設を進める取組を行っている。天然ガスについては、毎年のようにウクライナとの間の価格交渉が難航しているが、これは、ロシアがウクライナに供給する天然ガス価格を引き上げようとし、それにウクライナが抵抗することが要因となっている。 これまで旧ソ連諸国に対しては、欧州向けの輸出価格を大きく下回る価格で天然ガスを提供していたが、その価格差も徐々に縮小する方向にある(第1-2-6-14表)。

 

第1−2−6−13表 戦略産業外資規制(2008年5月公布)の対象業種

 

第1−2−6−14表 ロシア天然ガス輸出価格の推移(ドル/千m2

(ii)資源の高付加価値化

 木材の主要生産国でもあるロシアは、2007年2月、丸太の輸出関税を4段階に分けて引き上げることを決定した。当初1立方メートルあたり4ユーロだった輸出関税は現在15ユーロにまで引き上げられている157が、この決定の背景には、安価な原木を輸出するのではなく、ロシア国内において木材加工を行い、付加価値を高めて輸出する業者を支援する目的があるものと考えられる。

 また、ロシア初の液化天然ガスプロジェクトである「サハリンII」が2009年2月に稼働を開始した。本プロジェクトには我が国企業が参加し、天然ガスを液化してタンカーで輸送することが可能となり、同年3月には最初の我が国向け出荷が行われた。本プロジェクトの始動によって、これまで欧州に限定されていたロシア産天然ガスの販路をアジア大洋州地域に広げることができるようになった。

〔4〕日ロ経済関係

(a)自動車を中心に急拡大する日ロ関係

 ロシア経済の急速な拡大とともに、我が国からの自動車輸出及び自動車関連の投資が急増している。

 日ロ貿易は輸出入ともに拡大を続けており、2008年の貿易額は過去3年で2.6倍に増加した。特に我が国からの輸出額の伸びが著しく、2006年には輸入額を上回り、2008年には1.7兆円にまで拡大した(第1-2-6-15図)。貿易構造を見てみると、我が国からの輸出品目は1990年代後半から自動車の輸出額が最も高く、2008年では輸出額の76%を占めている。他方、ロシア側から見た対世界輸入品目構成でも、近年、自動車の輸入が増えてきており、2007年の輸入の約半分は自動車及び部分品となっている。しかし、モスクワ及びサンクトペテルブルクにおいては、金融危機発生以前からメーカーによっては自動車販売台数の伸びが鈍化する傾向が見られるなど、市場が成熟してきた可能性もある。今後はモスクワやサンクトペテルブルク以外の地方都市へ� �市場拡大も必要とされよう。

 

第1−2−6−15図 日ロ貿易額の推移

 また、自動車以外でも化学品、ゴム、食料品、繊維製品などの輸入が拡大してきており、今後、これらの分野でも我が国からの輸出が拡大することが期待される(第1-2-6-16図)。

 

第1−2−6−16図 ロシア輸入品目の変化

 他方、我が国からの直接投資も近年拡大傾向であり、2008年は対前年比で2倍以上と、大幅に増加した。ただし、我が国からの直接投資残高(6.5億ドル)がロシアの対内直接投資残高全体に占める割合は1%未満と極めて低い(第1-2-6-17図)。また、対ロシア直接投資残高は対中国投資残高の100分の1程度158と少なく、日ロ両国の経済規模を考えれば、対ロシア投資拡大の余地は大きいと言える。


 

第1−2−6−17図 我が国からの対ロシア直接投資残高の推移

 ロシアの対内直接投資は全体としても拡大しているが、業種別内訳では資源エネルギー採掘分野への投資が最も多く、資源確保に向けて各国が積極的に投資を行っていることがうかがえる(第1-2-6-18図)。卸売り分野でも増加が見られるが、これは主に自動車の修理業である。

 

第1−2−6−18図 ロシアの業種別対内直接投資残高の推移

 最近の我が国からロシアへの投資案件を見ると、自動車以外にもガラス、ゴム、アルコール飲料、食品加工など様々な業種が進出している。また、アパレル分野でも進出の動きが見られる。

 我が国ではロシアに対してあまり親しみを感じる人が多くないが、ロシアでは我が国に対して好意的な人が多く、我が国は先進技術を持った伝統文化豊かな国とのイメージが持たれている、との調査結果もある159

 ロシアは、現在自動車等の関税を引き上げるなど、一部の市場において保護主義的な措置をとっているが、高品質・高信頼性で評価されている我が国製造業にとって、潜在的なビジネスチャンスは大きいと考えられる。


コラム 8

日本と極東

 ロシア極東160はロシアの国土の3分の1あまりに及ぶが、その広い土地に住む人口はわずか700万人弱でマーケットとしては小さい。ロシア人から見ても、極東はあこがれの地とは言えず、生涯一度もこの地を訪れない人も多い。また、ロシアでのビジネスを行う上ではロシアの法制度、通関、輸送などの面で、未だ不便なことが多い。

 しかし、極東は何よりも我が国から近く、極東の人たちは我が国をよく知り、我が国製品の品質、安全性を非常に高く評価してくれている。そのため、北海道をはじめ日本海側に面した地域を中心に、中古車、農産物、日用品輸出など、規模はそれほど大きくないながらも様々なビジネスが行われている。

 

ハバロフスクで売られる日本食品(写真:ロシアNIS 貿易会提供)

 ハバロフスク、ウラジオストク、サハリンなどを走る車の8〜9割は日本車であると言われており、これらの多くは我が国から船で輸入された中古車である。ロシア人の所得向上に伴い、輸出される中古車も旧型の車から数年おちの程度の良いものにシフトしてきているという。ロシア政府は2009年1月、国内産業保護のため、輸入自動車の関税を引き上げた161。この措置は極東の中古車輸入業者たちの死活問題ともなるため、関税引き上げに反対するデモが極東を始めとして何度か起きた。関税引き上げにより、我が国からの中古車輸出は大きく減少しているが、このような状況下でも依然日本車に乗りたいと考える人が多いため、札幌ホンダは我が国のメーカー系の販売会社として初めてサハリンに進出することを決定している。� ��間業者を通さないコストを抑えた中古車輸出や、自動車修理を行う。

 最近では、寒冷地仕様の住宅や建材なども極東に進出し始めている。北海道ではもともと寒冷地用住宅の高い技術を持っており、寒冷地である極東にもこの技術を売り込み始めたのである。2009年2月には、北海道の企業が断熱パネルを供給し、サハリン州の企業が建築・販売する一戸建て住宅のモデルハウスが完成した。サハリン州でも一戸建て住宅が増えており、今後の需要拡大が期待される。

 一方、我が国を訪れる極東地域のロシア人向けにも、ユニークなビジネスが行われている。北海道にはサハリンから多くの観光客が訪れるが、船舶で来日し北海道内のスーパーマーケットや100円ショップなどで買い物を楽しむような中低所得者から、飛行機を利用し東京まで足を伸ばす富裕層などもいるという。極東は地下資源が豊富で、サハリンI、サハリンIIなど資源関連の巨大なプロジェクトが行われており、これらプロジェクトに関わる人など、一定の富裕層が存在する。北海道でロシア人向けの旅行を企画する企業によると、これら富裕層の観光客向けには、スイートルームに宿泊してエステを受けられるツアーや、人間ドックツアーなども人気がある。ロシアでは所得向上に伴い健康への意識が高まっていることに加え、極東� ��は高度な医療機関がなく、日帰り人間ドックのようなシステムも存在しないことも、我が国での人間ドックツアー参加の背景にあるという。

 ウラジオストク対岸のルースキー島では2012年にAPECが開催される。大陸からわずか600メートル離れたところにあるルースキー島は、19世紀には軍事要塞として使われていた。APEC開催が決まる以前はほとんどインフラが整備されていなかったこの地では、現在急ピッチで開発が進められている。大陸と島を結ぶ橋の建設には、我が国企業も参加するなど、インフラ関連の大型プロジェクトも我が国から極東へ進出し始めている。2009年6月には、我が国から官民合同ミッションをウラジオストクに派遣し、更なる我が国企業の協力促進を目指している。

 

ルースキー島への橋梁建設現場


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(2)ブラジル経済

〔1〕世界経済の中で存在感を高めるブラジル経済

(a)内需主導型の高成長

 1980年代から90年代初頭にかけて未曾有のハイパーインフレ162と対外債務危機による経済混乱を経験したブラジルは、1993年12月のレアル・プラン163の導入を契機に、約10年の歳月をかけてインフレの沈静化とマクロ経済の安定化、対外脆弱性の緩和に成功した。2003年に発足したルーラ政権は、選挙戦の過程で社会政策の拡充や対外債務の支払い停止などを訴えてきたため、政権発足当初には海外投資資金の流出等による経済混乱を招いたが、財政健全化を重視する姿勢を明確にすることで国際金融市場での信認を回復し、2005年3月にはIMFプログラムからの卒業も実現した。2004年以降、経済はほぼ一貫して成長軌道を進んでおり、2004〜2008年の5年間の実質GDP成長率は平均4.7%と、1999年〜2003年の平均の1.9%を大幅に上回ってい� ��(第1-2-6-19図)。


 

第1−2−6−19図 ブラジルの実質GDP成長率の推移

 ブラジルの経済成長をけん引しているのは、好調な内需である。2008年のブラジルの名目GDP2.9兆レアル(約134.3兆円164)のうち、個人消費が1.8兆レアル(約83.3兆円)と60.7%、固定資本形成が0.5兆レアル(約23.2兆円)と19%を占めており、2003〜2008年の年平均伸び率(前年比)もそれぞれ名目値で11.5%、14.7%と、高い伸びを続けている。


大恐慌時のアメリカでの生活

 好調な内需の背景には、インフレが抑制されていること、政府の累次の最低賃金引き上げ165や好調な企業業績等により平均賃金が上昇していること(第1-2-6-20図)、「ボルサ・ファミリア(家族基金)」と命名された政府の貧困層への生活費補助支給166により可処分所得が増加していること(第1-2-6-21図)などにより、中間層が拡大していることが挙げられる。ブラジルを代表する経済学・経営学の研究・教育機関であるジェトゥリオ・ヴァルガス財団の調査によれば、2008年12月時点で家族の月間収入が462〜1,995ドルの中間層は全人口の53.8%を占め、ボルサ・ファミリアが開始された2004年4月時点の42.2%から拡大している。月間収入1,996ドル以上の高所得者層の割合も11.6%から15.5%に上昇した。一方で、月間収入が333ドル� ��下の貧困層は37.2%から25.1%に減少している167。中間層の拡大に伴う購買力の上昇によって、近年、ブラジルの消費市場は著しく拡大しており、1人当たりの消費支出は2003年から2008年の間に4.1倍に増加した(第1-2-6-22図)。個人消費の拡大が企業業績の改善につながることで、さらなる賃金上昇と雇用の安定が生み出され、また、好調な経済情勢は海外資本の流入と信用市場の拡大を通じて消費者への与信を活発化させ、それが個人消費を一層拡大させるという好循環が起こっている。2009年3月時点の個人向け融資残高(住宅ローンを除く)は4,087億レアルで、2004年1月時点の1,003億レアルの4.1倍に拡大している。


 

第1−2−6−20図 ブラジルの消費者物価上昇率と実質平均賃金の推移

 

第1−2−6−21図 ブラジルの実質可処分所得の推移

 

第1−2−6−22図 ブラジルの消費市場の拡大

 おう盛な内需を背景に輸入も増加しており、2008年の輸入額は対前年比43.6%増の1,732億ドルと過去最高を更新した(第1-2-6-23図)。

 

第1−2−6−23図 ブラジルの輸入額の推移

(b)多様性に富む産業構造

 ブラジルは、資源・食料需要が世界的規模で増加する中、世界有数の資源・農産品輸出国として、その存在感を高めている。資源分野では、2007年の鉄鉱石生産量は世界第1位の3.4億トンで世界シェアの21%を占めているほか、石炭、アルミ地金、ニッケル、マンガン、チタン等の埋蔵量も豊富である168。農産品の分野では、オレンジ・砂糖・コーヒー(生産量世界第1位)、大豆・牛肉(生産量世界第2位)など、強力な生産力を背景に、2007年には米国に次ぐ世界第2位の農産品輸出国になっている169

 一方で、ブラジルの輸出総額の伸びに占める輸出品目別の寄与度を見ると、鉱物資源、農産品及び工業製品がほぼ同じ割合で輸出の伸びをけん引している(第1-2-6-24図)。また、名目GDPの寄与度を産業別に分解すると、サービス業の比重が高いことが分かる(第1-2-6-25図)。産業別従業者数では、農業が17.6%、工業が22.2%、サービス業が60.2%と、サービス業が過半を占めており、サービス業主体の経済構造となっていることがうかがえる170。海外からの直接投資も、2008年の第1位の投資分野は鉱業であったものの、金融業、商業、不動産業などのサービス業や金属工業、自動車エンジン製造業等の工業分野など幅広い分野への投資が進んでおり(第1-2-6-26表)、資源のみに依存しない多様な産業構造が形成されている。


 

第1−2−6−24図 ブラジルの輸出総額と品目別寄与度

 

第1−2−6−25図 ブラジルの名目GDP成長率と産業別寄与度(前年同期比)

 

第1−2−6−26表 対内直接投資の業種別分布(2008年)

(c)国際金融市場での信認の高まりと海外資本の流入

 上述のとおり、近年、ブラジルの経済ファンダメンタルズは改善し、外需も拡大傾向にある。世界的な資源・食料価格の上昇やアジア・欧州からの需要増や変動為替相場制への移行に伴う輸出競争力の回復等により輸出が増加した結果、貿易収支は2001年以降黒字に転換した。この結果、貿易がけん引する形で経常収支も2003年から黒字に転換している(第1-2-6-27図)171。外貨準備高も増加しており、2009年3月末時点で対外債務残高を上回る2,025億ドル172に達した173(第1-2-6-28図)。ブラジル政府は、対外脆弱性の改善を受け、1998年から受けていたIMF融資を2005年12月に2年前倒しで完済している。ブラジル経済に対する信認の向上を受け、直接投資や証券投資も増加してきた。特に、日・米・欧が超低金利下にある中で� ��2007年にはブラジルの高金利と為替増価を背景として、キャリー・トレード174を始めとする多額の資金流入が生じた(第1-2-6-29図)。2008年4月には、米国の格付け会社であるスタンダード・アンド・プアーズ社がブラジルの外貨建長期債格付けを投資適格級の「BBBマイナス」に引き上げている。


 

第1−2−6−27図 ブラジルの経常収支の推移

 

第1−2−6−28図 ブラジルの対外債務残高と外貨準備高の推移

 

第1−2−6−29図 ブラジルの資本収支と投資資金の流入の推移

(d)国際社会での発言力の増大と南米諸国との連携強化

 ブラジルは世界第5位の人口と面積175を誇り、GDPも世界第10位の1.6兆ドルと豪州の1.5倍、ASEAN10か国の合計を上回る。近年の景気拡大と国際金融市場での信認の改善を受け、新興国の代表としての国際社会でのブラジルの発言力も高まっている。WTO・ドーハラウンド交渉の場でも、主要交渉メンバーの一角として積極的に交渉に参画しているほか、2008年には20か国財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)の議長国を勤め、同年11月に同会議の会合をサンパウロで開催した。ワシントンで同月に開催されたG20においては、中国、インド、ロシアと共同でBRICsとして初の共同声明を発表し、新興国への融資拡大やIMFへの出資比率の見直し、IMFにおける新興国の発言権の拡大等を求めた。さらに、2009年4月に開催されたロンドン・サミット(第2回 金融・世界経済に関する首脳会合)に出席したルーラ大統領は、IMFへの百億ドルの拠出を表明している。

 また、ブラジルとメルコスール176諸国との経済関係も緊密化している。ブラジルの輸出相手国に占めるメルコスール諸国向けのシェアは2002年の10.4%から2008年には19.3%にほぼ倍増した。輸出先の上位10か国中3か国がメルコスール加盟国・準加盟国となっている(第1-2-6-30表)。特にアルゼンチンとの間では、2008年5月に、2014年の自動車貿易全面自由化177に関して合意がなされたほか、2008年9月には両国の二国間貿易でドルを介さない現地通貨同士による直接決済を可能とする新制度に両国首脳が署名を行っている。


 

第1−2−6−30表 ブラジルの主な輸出相手国

 さらに、2008年6月には、ブラジルの首都ブラジリアにおいて、南米12か国からなる南米諸国連合(UNASUR)の臨時首脳会合が開催され、南米諸国連合設立条約が採択された。同条約は、政治対話の強化をはじめ、経済・社会分野での協力を含む21項目の目標を列挙しており、将来の南米議会設置についても規定されている178。ルーラ大統領は、EU型の高度な地域共同体の形成を目指す意志を示しており、実現すれば2.4兆ドルの経済規模を有する市場179が誕生することになる。

〔2〕米国発金融危機の影響と今後の見通し

(a)金融収縮と生産・消費活動への影響

 2008年9月のリーマン・ショック以降の世界的な金融危機とそれに連動した世界的な景気後退は、それまで順調に拡大を続けてきたブラジル経済にも少なからず影響を与えている。ブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、ヴァーレ(旧リオドセ)やペトロブラス等の資源関連銘柄が大半を占めていることから、資源価格の下落に伴って2008年5月をピークに続落傾向にあったが、2008年9月以降、投資家が利益確定売りを急ぎ、新興国から急速に資金を引き揚げた結果、株価の下落に追い打ちをかけた(第1-2-6-31図)。通貨レアルも下落し(第1-2-6-32図)、2008年末時点の株価と為替は、2007年末と比較し、それぞれ57.6%及び23.1%下落した180。拡大する消費者向け信用市場によって支えられ、順調に成長していた個人消費181は、国内金 融機関の資金流動性の逼迫によって信用供与にブレーキが掛かったことなどから減速し、これに伴い企業の生産活動・設備投資も縮小、2008年第4四半期の実質GDP成長率は前期比−3.6%と大きく落ち込み、対前年同期比でも1.3%と伸び率が縮小した(第1-2-6-33図)。生産活動の減速に伴い、雇用情勢も悪化している。景気拡大を受け6〜7%台にまで低下していた失業率は、企業の生産調整が活発化した2008年末から再び上昇に転じ、2009年3月時点で9%となっている。


 

第1−2−6−31図 ブラジルの株価と海外証券投資純流入額の推移

 

第1−2−6−32図 ブラジルの為替レートと資本収支の推移

 

第1−2−6−33図 ブラジルの実質GDP成長率と需要項目別寄与度

(b)ブラジル政府・中央銀行の金融危機への対応

 ブラジル中央銀行は、リーマン・ショック発生後、迅速に総額3,600億レアル(約14兆円)182の通貨供給量の増大を図る流動性供給策や為替安定策などを発表して信用収縮の緩和に努めている。世界的な景気後退や穀物等市況商品の国際価格下落を受け、インフレ懸念が後退していることから、2009年1月、3月及び4月に合計3.5%ポイントの政策金利引き下げも行った。

 また、政府も個人消費や設備投資の停滞による内需の冷え込みを緩和するため、2008年12月に総額84億レアル(約3,400億円)183規模の景気対策を公表し、所得税や金融取引税等の引き下げが実施されている。さらに、個人消費の下支えを図るため、例年3〜5月に実施されていた最低賃金の引き上げを2009年2月に前倒しで実施し、引上げ幅も名目で12%とインフレ率を大幅に上回るものとした。2009年3月には中低所得者向けの住宅を百万戸建設する計画も発表(第1-2-6-34表)。政府は2007年1月に策定した「成長加速プログラム(PAC)」に盛り込まれた総額5,039億レアル(約20兆円)にのぼるインフラ投資計画184を2009年2月に拡大し、2010年までに1,421億レアル(約5.6兆円)の追加投資を実施することを発表するなど財政支出による景気� �復への姿勢も明確にしている。


 

第1−2−6−34表 ブラジル政府/中央銀行の金融危機後の主な景気対策

 このような政府・中央銀行の取組によって、既に一定の効果が現れている。例えば1,000ccクラスなどの小型車を中心とした乗用車購入に係る工業製品税の引き下げと、オートローン向けの資金供給が奏功し、自動車販売台数は2008年11月を底として回復傾向にあり、これに伴い自動車生産も2008年12月を底として回復している(第1-2-6-35図)。中央銀行の流動性供給により、信用市場の面でも大きな混乱は起きていない(第1-2-6-36図)。OECDは、2009年3月に公表した世界経済見通しの中で、金融危機後にブラジル政府・中央銀行が実施した措置は迅速かつ適切であり、これらの措置が2009年末から2010年にかけてのブラジル経済の回復を強く支えるであろうと評価している。

 

第1−2−6−35図 ブラジルの自動車ローンと自動車販売・生産台数の推移

 

第1−2−6−36図 ブラジル金融機関の融資残高と月間融資実行額の推移

(c)堅調な個人消費と景気回復の兆し

 一方、世界的な景気後退の波の中でも、ブラジルの個人消費の底堅さは際だっている。小売売上高指数は、2003年11月以来、対前年比で一度もマイナスに落ち込んでおらず、リーマン・ショック以降も前年増で推移している。前月比では2008年10月からマイナスに落ち込んだものの、2009年1月からは再び前月比増に戻している(第1-2-6-37図)。上述のとおり自動車販売台数も2008年末を底として回復に転じており、2009年第1四半期の販売台数は、工業製品税の引き下げ期限185前の駆け込み需要が殺到したことなどから、過去最高の66.8万台を記録した。


 

第1−2−6−37図 ブラジルの鉱工業生産と小売売上高(前月比)

 消費が堅調な要因としては、足下での悪化を踏まえても総じて雇用情勢が安定していること、インフレ率の低下と政府の最低賃金引き上げ等により実質賃金が増加していること、ボルサ・ファミリアにより中間層が拡大していること等の構造要因に加え、かつてのハイパーインフレの経験から、ブラジルの消費者は自国通貨に対する信頼性が希薄で、貯蓄よりも商品購入を選好する傾向が強いことが考えられる。

 個人消費の改善傾向を受け、企業の生産活動も改善に転じつつある。鉱工業生産指数は、2008年12月には自動車等の耐久消費財の生産の縮小が主な下押し要因となり対前月比−12.67%(季調済)の大幅な低下となったが、2009年1月以降は前月比でプラスに転じている(前掲第1-2-6-37図)。

 このように、堅調な個人消費にけん引され、政府の景気刺激策に下支えされる格好で、ブラジル経済には既に景気底打ちの可能性も見え始めており、OECDも2009年3月末に公表した世界経済見通しにおいて、ブラジル経済の底打ちの可能性に言及している186。さらに、欧米等の諸外国と比較し、ブラジルの金融機関は自己資本比率が高いなど健全な経営を維持していること(第1-2-6-38図)、内需主導の経済成長構造により輸出への依存度が低いこと(第1-2-6-39図)等を鑑みると、諸外国と比較して金融危機の影響は軽微なものにとどまるとみられる。


 

第1−2−6−38図 主要国の銀行自己資本比率(2008年)

 

第1−2−6−39図 主要国の輸出依存度(GDP比、2007年)

(d)「ブラジル・コスト」問題

 一方で、ブラジルが抱えるいくつかの構造的な問題が、近年の好況により見過ごされ、未解決のまま残されている側面も考慮に入れる必要がある。

 ブラジルでは過去のハイパーインフレの教訓からインフレ抑制のための高金利政策が維持されており、現在の政策金利は10.25%、企業・個人向け平均融資金利は年率39.2%187と諸外国の中でも高い水準となっている。この高金利は、複雑な税体系や重い税負担(第1-2-6-40図)と相まって企業の設備投資を抑制(第1-2-6-41図)し、その結果、労働生産性も伸び悩んでいる(第1-2-6-42図)。2001年から2006年の実質労働生産性上昇率はマイナス0.02%で、中国等の他の新興国と比較して著しく低い188。重い税負担は、企業収益を押し下げるとともに、労働者の非正規雇用を助長する要因ともなっている。


 

第1−2−6−40図 主要国の企業の税負担率(2007年)

 

第1−2−6−41図 主要国の国内総固定資本形成(GDP比、2007年)

 

第1−2−6−42図 主要国の労働生産性上昇率(2000-2006年)

 また、近年の景気拡大が伴う税収増によりプライマリーバランス上の黒字額は拡大しているものの、高金利により政府の利払い負担は依然として重く、前述のボルサ・ファミリアを始めとした手厚い社会保障支出も重なり、総合財政収支は赤字から転換できていない(第1-2-6-43図)。総公的債務残高はGDP比で62%189と高水準のままであり、リーマン・ショック以降の政府の景気刺激策の実施により再び財政収支が悪化する懸念もある。


 

第1−2−6−43図 ブラジルの財政収支の推移

 さらに、硬直的な労働慣行や労働者を過度に保護する労働法規190も、企業の投資コストを増加させる要因となっている。世銀が世界主要国の投資環境を評価したランキング191においても、対象国181ヶ国中、ブラジルは雇用環境(121位)、税制(145位)などの低評価により、総合で125位と下位に位置している。これらの企業投資コスト押し上げ要因は「ブラジル・コスト」とも呼ばれ、ブラジル国内外の企業から長年にわたり改善が求められてきた。過去のハイパーインフレから脱却し、マクロ経済のファンダメンタルズが飛躍的に改善している今こそ、治安、知的財産制度、司法制度、行政制度等の改革も含めた構造改革を推進し、民間投資を呼び込むことで産業高度化を図り、更なる経済成長を実現していく必要がある 。

〔3〕日本との関係

(a)再び活況を呈している日本企業の対伯投資

 日本とブラジルの経済関係は「ブラジルの奇跡」と呼ばれた高度経済成長期に緊密化し、鉄鋼開発、紙パルプ資源開発、セラード農業開発、アマゾン・アルミ精錬等の「ナショナル・プロジェクト」を始めとして約500社の日系企業が進出したが、1980年代に入り、ブラジルのハイパーインフレと対外債務危機をきっかけに日系企業の撤退が相次いだ192。以降、日本企業の投資は停滞し、「失われた20年」とも呼ばれるようになったが、近年のハイパーインフレの克服、対外債務の削減、及び世界的な資源ブーム等による経済の拡大を背景に、日本企業の対伯投資は再び活況を呈している(第1-2-6-44表)。特に、日本人のブラジル移住100周年に当たる2008年には、鉄鋼や自動車を始めとした大型投資が相次ぎ、投資額は2000年の11倍に、� �ェアは6倍に増加した(第1-2-6-45表)。


 

第1−2−6−44表 最近の日本企業の主なブラジル直接投資案件

 

第1−2−6−45表 ブラジルの国別対内直接投資の変化

(b)日本企業のプレゼンス

 貿易量の推移を見ると、日本の対伯輸出額は増加を続けているが、ブラジルの輸入総額に占めるシェアは低下傾向にある。一方で、中国の対伯輸出は日本を上回るペースで増加を続けており、2008年にはブラジルの輸入相手国の第2位にまで上昇している(第1-2-6-46図)。

 

第1−2−6−46図 ブラジルの輸入額の推移と日中の対前年伸び率


眼振保険の集落

 個別企業ベースでも、日本企業は拡大を続けるブラジルの消費市場を獲得しきれていない。例えば2008年のブラジルの自動車販売台数に占める日本車のシェアは9%と、欧米メーカーと比較して小さい(第1-2-6-47図)193。また、ブラジルの企業別売上高の上位500社に日本企業は9社しか含まれていない194。ブラジルの小売売上の推移を品目別に分解すると、オフィス・通信機器や化学品・化粧品、食品等、多様な分野でリーマン・ショック以降も前年を上回る成長が持続している一方で(第1-2-6-48図)、日本の対ブラジル直接投資残高には輸送機器や鉄鋼など一部の業種への偏りが見られ、広範な業種への投資を展開している米国を始めとした欧米企業との間に乖離がある(第1-2-6-49図)。地理的・歴史的な背景から、ブラジル を含む中南米では欧米企業の存在感が強い一方で、低価格の家電や軽工業品などの分野では中国企業の価格競争力が高いなど、日本企業を取り巻く環境は厳しいが、1億9千万人の国民がおう盛な消費を続けている国は世界でも珍しく、日本企業が売上を伸ばし、存在感を高める余地はまだ十分に残されているものと考えられる。


 

第1−2−6−47図 ブラジルの自動車販売台数と日本車シェアの推移

 

第1−2−6−48図 ブラジルの小売売上高の推移(対前年同月比)

 

第1−2−6−49図 日米の対ブラジル直接投資残高の比較

(c)新たな関係構築の可能性

 日本にとってのブラジルは、広大な国土が生み出す豊富な資源・食料の供給国という従前からの位置づけに加え、近年では拡大する消費市場を念頭に入れた「マーケット・ブラジル」としても重要性が高まっているが、そのほかにも新たな関係構築の芽が出始めている。

 例えば、ブラジルは2006年6月に海外で初めて日本方式を基礎とするデジタルテレビ方式(日伯方式)の採用を決定した。現在、日伯方式を南米諸国に拡大するべく、日本とブラジルが官民一体となって共同で南米諸国への働きかけを行っており、2009年4月にはペルーが日伯方式の採用を決定した195。また、地球環境問題への意識が世界的に高まる中、2008年7月の甘利経済産業大臣(当時)の訪伯の際には両国間でのバイオ燃料分野での相互協力についての確認がなされた他、世界有数のCDM196大国であるブラジル197でのCDMプロジェクト推進など、地球環境面での協力の可能性が高まっている。さらに、ブラジル政府は上述のとおり「成長加速プログラム」に基づく大型インフラプロジェクトを推進しており、日本企業� ��ノウハウを活用してのプロジェクト参画への期待も高まっている。

 日本からブラジルへの投資に加え、アジア市場への進出を見据えたブラジル企業の日本への投資案件も実現し始めている。例えばブラジル国営石油公社のペトロブラスは、沖縄に精製施設を有する石油精製会社である南西石油を将来の精製能力の改善を念頭に置いて2008年4月に買収し、アジア市場への進出を開始している。

 産業高度化・高付加価値化が進むブラジルと我が国が連携しての、第三国でのビジネス展開や第三国市場に向けての生産・輸出も進んでいる。国際石油開発帝石は、エクアドル、メキシコ及びベネズエラにおいてペトロブラスと共同で原油や天然ガスの探鉱・開発プロジェクトを運営している。また新日本製鉄は、同社の持分法適用会社であるブラジルの鉄鋼メーカーのウジミナス社を、成長するブラジル市場の確保策としてのみならず、北米・欧州・アフリカ市場向けも視野に入れ、ウジミナス社への技術支援を強化している。

(d)さらなる日伯経済関係強化に向けて

 このように、日本側から見ての資源・食料の供給基地として、また市場として、さらには南米全体への事業展開の拠点、欧米への輸出拠点としてなど多様なブラジルの可能性に加え、ブラジル側から見てのアジア市場への進出拠点としての対日投資など、日伯経済関係の可能性は日々深化・多様化している。150万人ともいわれるブラジル在住日系人198という貴重な財産を活用することで、さらなる日伯経済関係強化も期待できる。

 一方で、ブラジルが抱える税制や労働法規等の構造問題や治安問題などの「ブラジル・コスト」(前掲)は、日本企業のブラジルでの円滑な事業活動を阻害している。日伯経済関係をさらに緊密化し、双方が共に経済成長を享受していくためにも、日本政府とブラジル政府が共同で立ち上げ、2009年2月に第1回会合が開催された「日伯貿易投資促進委員会」等の場を通じて、双方が協力して貿易・投資を阻害する要因の改善に取り組む199ことが求められる。


コラム 9

多様な魅力を持つ中南米諸国

 中南米にはブラジル以外にも独自の成長構造によって高い成長を続けている国々が存在する。以下では、農業等の分野で高い潜在成長性を有するアルゼンチン、治安の急速な改善によって有望な投資先に変貌しつつあるコロンビア、好調な内需によって南米一の高成長を続けるペルー、及び中南米最大の石油輸出国ベネズエラについて概観する(コラム第9-1図)。

 

コラム第9−1図 アルゼンチン、コロンビア、ペルー、ベネズエラの実質GDP成長率(前年比)

【アルゼンチン】 〜対外債務問題は未解決だが、農業等の分野での潜在成長性は高い〜

 世界第8位の国土面積と、南米第1の高所得・南米第2の経済規模を有するアルゼンチン200は、2001年から2002年にかけて、対外債務のデフォルト(返済不履行)を宣言するなど深刻な経済危機に陥ったが、2003年以降は目覚ましい回復を遂げてきた。経済成長率は2003年から2008年まで6年連続で7%を超え、2008年9月のリーマン・ショック以降、年金基金の国営化とも相まって資本市場及び為替市場における混乱が見られたが、スーパーマーケット売上高は対前年比20%増のペースで上昇している201など、伸びの鈍化が見られるものの、おう盛な個人消費が持続している。

 同国の経済回復を牽引した要因の一つは、世界的な食料需要の高まりによる農産品輸出の拡大である。同国の農用地面積は国土面積の48%を占め、適度な雨量と温暖な気候、国土の約4分の1を占めるパンパと呼ばれる肥沃で平坦な温帯草原地帯に恵まれている。近年では、先端農業機器の導入や、遺伝子組換え作物を用いた不耕起栽培202などの採用により生産力の向上を実現した結果、現在では大豆が世界第3位、トウモロコシが世界第7位、小麦が世界第13位203と、世界有数の農産物生産国となっている。加工食品を含めた食料輸出は、2003年以降、平均で前年比20%を超える成長を続け(コラム第9-2図)、2008年の同国の輸出総額の51%を占めるまでに拡大している204。大豆を原料とするバイオディーゼル燃料の生産� �も年々拡大している205。2008年前半まで高騰を続けていた一次産品価格が足下では下落傾向にあることや206、2008年から2009年初頭にかけて同国が大規模な干ばつに見舞われていることなど、短期的なリスクは存在するものの、世界の人口増加や新興国の経済成長に伴い中長期的な食料需要は高止まりすると見られており、同国の作付面積に充分な余力があること207などを鑑みると、同国の農業分野の成長力は高い。


 

コラム第9−2図 アルゼンチンの食料輸出額の推移

 また、同国はチリ国境のアンデス山脈地域に銅、鉛、亜鉛、金、銀、リチウム等豊富な鉱物資源を保有している208。2001年のデフォルト以降、国際金融市場での資金調達が困難になっていることなどから、その開発は進んでおらず、探鉱が充分なされていない地域が数多く存在する。さらに、地下鉄、港湾、鉄道、電力など、インフラ分野には相当な改善の余地があり、今後のインフラ投資機会の高まりも期待される209。対外債務問題が解決していないこと、上述のとおり同国政府が年金基金を国営化するなど国家経済への関与を深めていること、さらには農業輸出税の引上げ210に見られるような不安定で予見可能性を欠く政策運営などから依然として不安要素は残っているが、中長期的なビジネスチャンスは大き い。

【コロンビア】 〜治安の改善により将来有望な投資先へ変貌〜

 コロンビアでは、2002年に就任したウリベ大統領が、軍や警察の増強やFARC(コロンビア革命軍)等の非合法武装勢力への取締強化など国内治安回復に向けた取組を強力に推し進めたことで、かつては世界最悪とも言われた治安が急速に回復している。ウリベ大統領就任時の2002年と2008年を比較すると、テロ発生件数は1,645件から347件に、誘拐は2,882件から425件に、殺人は2万8,837件から1万6,140件へと大きく減少した211

 治安の改善に伴い、投資家からの信頼も回復している。世銀が2008年9月に公表した世界各国の投資環境ランキングにおいて、同国は「最も改善が進んだ10か国」の一つとして取り上げられている212。米国の格付会社であるムーディーズ社は、2008年6月にコロンビア政府の発行する外貨建て長期国債の格付けをBa2から投資適格級まであと一段階となるBa1に引き上げた。同国は元来、豊富な天然資源213と中南米で第3位となる4,600万人の市場を有し、南米で唯一太平洋と大西洋の両方に港を有する物流拠点としての地理的特性にも恵まれているなど、投資先としての魅力は十分に備えている。フリートレードゾーンの設置など外国直接投資に関する優遇制度214も整備されており、海外からの投資の最大の阻害要因であった� ��安の改善を受けて、近年対内直接投資は増加傾向にある(コラム第9-3図)。投資分野も金融業や製造業、商業など多岐にわたっている(コラム第9-4図)。


 

コラム第9−3図 コロンビアの対内直接投資の推移

 

コラム第9−4図 コロンビアの対内直接投資の業種別内訳

 日本企業の投資については、2008年の1月から9月の合計で34億円(同国の対内直接投資総額の0.4%程度215)と低調だが、近年の投資環境の改善に伴い、製造拠点の設立や、新たに支店を開設又は駐在員を配置する等の動きが出てきているなど徐々に関心が高まりつつある。日本とコロンビアの外交関係樹立百周年を迎えた2008年には、両国の産・官・学の各代表メンバーから構成される「日・コロンビア賢人会」(日本側座長:小島順彦三菱商事社長)が発足し、両国の経済関係の活性化に向け、投資協定・租税条約の交渉開始、将来的な経済連携協定交渉開始の実現に向けて努力することを求める提言をとりまとめた。提言の中では、日本からの投資有望分野として、自動車、機械工業、医療、バイオ燃料、金融セクター、石油化� �工業、農業が取り上げられている。本報告書を受け我が国との間で二国間の投資協定等の交渉が開始されており、今後の両国経済関係の強化が期待される。

【ペルー】 〜好調な内需の牽引により南米随一の高成長が続く〜

 ペルーでは、1990年代に発足したフジモリ政権以降、歴代政権が自由主義経済政策と健全なマクロ経済政策を押し進めた結果、対外債務が大幅に減少216、財政状況も改善した217。治安の回復や近年の資源価格の上昇などにも後押しされ投資先としての魅力が高まった結果、対内直接投資は2004年の16億ドルから2008年には65億ドルへの増加が見込まれている218。2008年7月には米国の格付会社であるスタンダード・アンド・プアーズ社がペルーの外貨建て長期国債を投資適格であるBBB-に引き上げた。我が国との間でも、2008年11月に日・ペルー投資協定に署名し、現在両国で発効に向けた手続きが進められているほか、本年4月14日、両国首脳間でEPA交渉開始が正式に決定され、5月25日から30日に第1回交渉会合がペルーで開催 された。

 生産量が世界第1位の銀、第3位の銅・亜鉛・錫など、金属資源の宝庫であるペルーであるが、近年ではマクロ経済状況の安定と対外脆弱性の緩和によりインフレ率や失業率が比較的安定して推移している219ことや、上述のとおり海外からの資金流入により国内投資が活発になっていることなどから、内需主導の高成長を実現している(コラム第9-5図)。2008年の実質GDPに占める個人消費と固定資本形成のシェアは、それぞれ67%及び28%と、GDPの9割以上を占めている。リーマン・ショック発生後の2008年第4四半期の個人消費は前年比8%、固定資本形成は同30%上昇しており、依然としておう盛な内需が持続している。多くの新興国で、世界金融危機の影響を受けて経済成長に陰りが見えてきているなか、ペルーの2008年の実質GDP成長率 は9.8%に達した。IMFの見通しでは、世界的な景気後退による資源需要の低迷、輸出価格の下落に伴う交易条件の悪化、及び海外からの投資資金流入の減少等、今後のリスク要因を考慮に入れても、2009年の成長率は3.5%と新興国平均220を上回る伸びが期待できるとしている221


 

コラム第9−5図 ペルーの実質GDP成長率需要項目別寄与度

【ベネズエラ】〜油価下落で苦境、日本との関係強化の兆し〜

 原油価格の高騰に後押しされる形で、近年記録的な高成長を享受してきたベネズエラ経済は、世界的金融危機による原油価格の低迷によって、一転して苦境に立っている。同国では輸出の93%を原油・石油製品に依存しているが222、2008年第4四半期の輸出額は、前期から67%減少し、その結果、経常収支も2001年第4四半期以来7年ぶりの赤字に転落した。2009年に入っても、原油輸出・経常収支は低調に推移している(コラム第9-6図)。


 

コラム第9−6図 ベネズエラの原油輸出額と経常収支の推移

 ベネズエラでは石油関連収入が財政収入の56%を占めていることから223、同国の国家財政は原油価格の下落によって大きな影響を受けている。ベネズエラ政府は、当初1バレルあたり60ドルの原油価格を想定して2009年度の国家予算を策定したが、原油価格の下落を受けて同40ドルに想定価格を引き下げ、国家予算を6.7%削減することを余儀なくされた。また、インフラ、エネルギー、環境、農業、医療、住宅等の社会開発プロジェクトの実施のために設立された国家開発基金(FONDEN)や国家経済社会開発基金(FONDESPA)等の予算外基金は、ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)からの拠出など、主に石油関連収入を原資に運営されていることから、原油価格の下落により今後のプロジェクト実施が危ぶまれている。

 このようななか、チャベス政権は、新たな投資誘致先としてアジアに着目している。2009年2月には中国との間で、埋蔵量の共同評価プロジェクトの立ち上げやベネズエラのインフラ開発のための共同基金への拠出額の引き上げ、ベネズエラから中国への日量8〜20万バレルの原油供給について合意がなされている224。我が国との間でも、本年4月のチャベス大統領来日の際に、麻生総理との間で、ベネズエラ内陸部にある同国有数の油田であるオリノコ油田の開発とその資金手当について両国間で検討するワーキンググループの設立など、エネルギー資源開発に関する協力関係を強化することで一致を見た。さらに、JOGMECや我が国民間企業とPDVSAとの間でも協力促進に向けた12本のMOUが締結されるなど、今後の両国の経済関係の発展に� ��けた機運が高まっている。但し、本年5月に、ベネズエラ政府が、日系企業を含む製鉄関連企業の国有化を発表するなど、ビジネス環境に関する不安要素も存在しており、その改善が求められる。



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(3)中東・アフリカ諸国経済

 中東・アフリカ地域は、ユーラシア大陸の一部と広大なアフリカ大陸に位置する国々と、人口約11億人(2005年)を擁する巨大な経済圏である。

 特に世界経済が資源価格の高騰に見舞われた2003年以降、原油や希少金属等の豊富な天然資源に恵まれた中東・アフリカ諸国に対して世界各国の関心が集まっている(第1-2-6-50表、第1-2-6-51表)。

 

第1−2−6−50表 石油及び天然ガス確認埋蔵量の地域別シェア

 

第1−2−6−51表 希少鉱物資源産出額の国別シェア

 域内の所得水準を一人当たり名目GDPで比較してみると(第1-2-6-52表)、国によってその水準は幅広く分布している。

 

第1−2−6−52表 中東・アフリカ諸国の主な経済指標

 域内の人口増加率は各国とも高く、おおむね年率2%前後で増加し続けている。失業率もほとんどのアフリカ諸国及び一部の中東産油諸国では10%を大きく上回る深刻な状況となっている。

 これらの国々の中で、原油輸出収入を背景として相対的に一人当たり名目GDPの値が高いGCC各国では、産業の多角化を図る取組が進められている。これは、増大する人口への雇用機会の提供を一つの大きな狙いとしており、特に自国民比率の高い国において雇用機会創出への取組が積極的に進められている225

 他方アフリカ諸国では、過去、主要な産業は農業であったが、アフリカ人の大半が農村生活者であるにも関わらず、世界と比較して一人当たりの穀物生産量は低位に推移しており、経済成長が停滞している状況にあった226。しかしながら、資源価格の高騰以降、先進諸国のみならず、中国、ロシアをはじめとする新興諸国企業による資源開発投資が活発化した結果、従来の農業を中心とした経済構造から、天然資源の開発・輸出を中心とした経済構造へと転換し、急速な経済成長を遂げる国が増えてきている。


滝POW- WOW上の雷

 ところが、2008年後半以降の資源・食料価格の急落と世界的な金融危機の到来によって、それまで順調な発展を続けてきた中東・アフリカ諸国経済も、海外からの資本が縮小されたり、輸出収入が減少したりするなどの影響を受け、大きな試練に直面している。

 以下では、このように大きく変化する経済環境の中で、中東・アフリカ諸国経済が置かれた現状と課題を概観しつつ、我が国企業の中東・アフリカ諸国でのビジネスチャンス拡大に向けた展望について考察する。

〔1〕中東・アフリカ諸国経済の現状(金融危機の中東・アフリカ諸国経済への影響)

(貿易)

 世界的な金融・経済危機は、中東・アフリカ諸国経済にも大きな影響を与えている。先進諸国の景気後退によるこれらの需要低迷や、原油、穀物等資源・食料価格の下落は、主力輸出品目である原油や穀物等の輸出額の減少を通じて、中東・アフリカ諸国の輸出額を2009年にかけて大きく減速させると見込まれている(第1-2-6-53図、第1-2-6-54図)。

 

第1−2−6−53図 中東産油諸国の原油生産量と輸出量の推移

 

第1−2−6−54図 中東諸国及びアフリカ諸国の財輸出の推移

(経済成長率)

 IMFによれば、非産油諸国を含む中東諸国全体の2009年の実質GDP成長率は2.5%、中東産油諸国については2.2%、アフリカ諸国についても2009年の成長率は2.0%と、それぞれ大きく減速すると見込まれている(第1-2-6-55図)。

 

第1−2−6−55図 大きく減速する中東・アフリカ諸国の実質GDP成長率

 2009年には先進諸国の成長率が大きくマイナスとなることが見込まれるなか、こうして中東・アフリカ諸国経済が、中国等他の新興諸国と同様、大きく減速しつつもプラス成長を維持することが見込まれていることは注目に値する。そして、IMFによれば中東・アフリカ諸国経済は2010年には早くも回復に転ずることが見込まれている227

 しかしながら、各国経済が受ける影響は必ずしも一様ではない。

 2009年の各国ごとの実質GDP成長率(IMF 予測値)を見ると、中東産油諸国では、UAE、サウジアラビア及びクウェートの3か国がマイナス成長に転落する一方で、オマーン、バーレーン及びカタールの3か国がプラス成長を維持すると見込まれており、大きく2極化する傾向が見てとれる。特に2009年には液化天然ガス(LNG)の生産が倍増するカタールの成長率は18.0%(2009年)と更に加速すると見込まれており、他の石油輸出諸国とは極めて対照的な動きを示している228(第1-2-6-56図)。


 

第1−2−6−56図 中東産油諸国の実質GDP成長率

 アフリカ諸国では、それまで大きな開きのあった石油輸出国と非石油輸出国との間の成長率格差は、アンゴラ等石油輸出国の成長率が大きく減速することで縮小し、2009年にはほとんど解消する見込みとなっている(第1-2-6-57図、第1-2-6-58図)。非石油輸出国の中では南アフリカ共和国が2009年にはマイナス成長に転ずると見込まれていることが注目される。

 

第1−2−6−57図 アフリカ諸国の実質GDP成長率(石油輸出国・非石油輸出国を含む)

 

第1−2−6−58図 アフリカ諸国の実質GDP成長率(石油輸出国)

(財政収支)

 原油価格の下落や海外需要の低迷による原油輸出収入の減少は、原油輸出収入に多くを依存する産油諸国の財政収支の悪化に直結する。第1-2-6-59図は中東産油諸国が毎年の予算編成の際に見込んでいる向こう1年間の原油価格水準と実際の中東ドバイ産原油価格の推移を比較したものである。これをみると、2008年以降、原油価格が急落し、各国の見通しを大きく下回ることとなり、これまでの資源価格高騰時に蓄積された内部財源を取り崩すことで、高まる行政需要や進行中のプロジェクトの維持に必要な経費に充てているとされ229、2009年には赤字予算となる国も見られる。しかし、2009年5月現在では、原油価格は再び上昇しており、各国の予算前提価格に適合してきている。


 

第1−2−6−59図 中東産油諸国の予算前提原油価格と実際の原油価格の推移

(経常収支)

 また、IMF(2009)の予測によると、2009年には中東・アフリカ諸国の経常収支は大幅に悪化する見込みである(第1-2-6-60図、第1-2-6-61図)。特に、石油輸出収入の減少によって、産油諸国の経常収支はそれまでの大幅な黒字から、一挙に赤字に転落する見通しである。また、資源・食料価格の下落を受けて非産油諸国の経常収支も悪化する見通しとなっている。

 

第1−2−6−60図 中東諸国の経常収支の推移

 

第1−2−6−61図 アフリカ諸国の経常収支の推移

(金融・資本市場)

 金融危機の影響は中東・アフリカ諸国の金融・資本市場にも及んでいる。UAEをはじめとする各国で海外資本の引き揚げが相次いだ結果、各国の株価(第1-2-6-62図)や不動産価格は大幅に下落し、多くの国で流動性不足を背景とした金融市場の機能不全が生じた。中東地域の多くのソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)も海外市場への投資で巨額の損失を計上した230


 

第1−2−6−62図 中東産油諸国の株価

 しかしながら、損失は発生してはいるものの、ソブリン・ウェルス・ファンドは、依然、巨額の資産を保有している。

 ロンドンの国際金融サービス協会(IFSL)によると、2008年末の世界のSWFの運用資産は、金融危機の発生にも関わらず、2007年末時点に比べ、18%増加した(第1-2-6-63図)。2007年末時点と2008年末時点のSWFの地域別マーケットシェアを比較すると、中東地域は45%から46%へと僅かながらシェアを拡大させており(第1-2-6-64図)、この間も運用資産残高を減少させていないことが分かる。

 

第1−2−6−63図 世界のソブリン・ウェルス・ファンドの管理資産残高の推移(主要原資別)

 

第1−2−6−64図 ソブリン・ウェルス・ファンドの地域別マーケットシェア

 このソブリン・ウェルス・ファンドの運用資産残高(3兆9千億ドル)は、ヘッジファンド(約1兆7千億ドル)やプライベートエクイティ(約7,000億ドル)のそれをすでに大きく上回っており231、金融危機を経ても今後ますます存在感を強めていくものと考えられる。

 実際に、ソブリン・ウェルス・ファンドとしては、世界最大とも言われるアブダビ投資庁(ADIA)を持つアブダビは、目的別に複数のソブリン・ウェルス・ファンドを運営しており、金融危機発生後も積極的な投資活動を行っている(第1-2-6-65表)232


 

第1−2−6−65表 アブダビのソブリン・ウェルス・ファンドの主な投資活動実績

〔2〕中東・アフリカ諸国におけるビジネスチャンス

 こうした世界的な金融・経済危機のなかにあっても、資源に恵まれた中東・アフリカ諸国には、資源開発、産業の多角化及び都市・インフラ整備プロジェクトなど、我が国企業にとって魅力的な市場が数多く展開している。また、近年の所得向上による中間層の拡大を受けて、消費市場としての有望性も高まってきている。こうした中、我が国は、GCC諸国との間でFTA交渉を行っており、2009年3月には第4回中間会合を開催した。

 以下では、こうした市場としての中東・アフリカ諸国に着目して、これら地域における我が国企業のビジネスチャンスについて考察する。

(中東諸国)

 サウジアラビアでは、金融危機の発生以降消費は減退しているものの、中長期的な購買力は健在であるとみられる。その理由として、原油輸出収入を背景として中長期的には国民の生活が困窮する恐れの少ないこと、若年層を中心に人口が増加していることなどが挙げられる。

 サウジアラビアの賃金階層別の従業員数データ233を見ると、サウジアラビアでは、月給1,000ドル以下の労働人口が20%存在する一方で月給5,000ドル以上の労働人口も20%以上存在している(第1-2-6-66表)。後者の所得階層は、新興諸国のなかでは比較的高い購買力を有することから、サウジアラビアの消費市場としての魅力は相対的に高いと言える。


 

第1−2−6−66表 賃金階層別の従業員数割合(サウジアラビア)

 また、サウジアラビアでは、製造業や運輸・通信を中心に石油以外のセクターが、原油価格の騰落に関わらず、堅実に伸長してきている(第1-2-6-67図)。その結果、徐々にではあるが、国内産業の多角化が進展してきており(第1-2-6-68図)、我が国の石油関連産業以外の業種についても、ビジネスチャンスが広がりつつあることを示している。

 

第1−2−6−67図 サウジアラビアの業種別実質GDP寄与度(鉱業を除く)

 

第1−2−6−68図 サウジアラビアの産業別GDP成長率寄与度

 さらに、中東産油諸国では、都市開発、インフラ整備及び石油化学産業関連プラントの新設などといったプロジェクト需要が引き続き旺盛である(第1-2-6-69図、第1-2-6-70表)。特に、UAEにおいて、プロジェクト需要の伸びが著しく(第1-2-6-71図)、建設、エンジニアリング及び化学等の分野におけるビジネスチャンスの拡大が期待できる。

 

第1−2−6−69図 中東市場におけるプロジェクト成約額

 

第1−2−6−70表 サウジアラビアにおける主要経済都市プロジェクト

 

第1−2−6−71図 発注国別成約高推移

 プロジェクト産業に関連して、GCCでは今後、石油化学関連設備能力の大幅な増強が見込まれる。GCCの石化関連製品は、廉価な原材料費234が製品の競争力となっており、今後GCCの輸出製品となってくることが予想される。我が国のエチレン生産の現有能力は、790万トンであり235、アラブ首長国連邦のケウマイアット計画の規模が年産700万トンであることに鑑みると、その新設計画の大きさがうかがえる(第1-2-6-72表)。


 

第1−2−6−72表 GCC諸国と中国の石油化学工業製品の生産能力の伸び

 さらに、中東産油諸国では、国内の人口増大や都市化の進展によるエネルギー消費量の拡大を背景に(第1-2-6-73表)、省エネルギー分野への関心が高まっている。

 

第1−2−6−73図 主要なGCC諸国のエネルギー消費量の対前年比増加割合

 産油諸国でのエネルギー使用効率の向上が実現すれば、国内での化石燃料需要の増加を抑制する効果が期待されるばかりではなく、産油諸国の化石燃料の輸出余力の向上を促すこととなり、これら地域からの原油輸入に大きく依存する我が国にとってそのメリットは大きい。

 また、GCC諸国では、水資源の不足が懸念されており、水資源のより効率的な活用に向けた取組が進められており、その効率的な活用に向けた取組が積極的に進められている236。我が国は、造水設備等に関する個別の技術だけではなく、オペレーションを含めた総合的な水の有効利用について優れたノウハウを有している237。我が国の優れた水関連技術を展開することによって、GCC諸国の社会的課題である水問題の解決の一助となり、互恵関係の構築に資することが重要である。以下、上水道及び下水処理分野における我が国の強みと、中東水資源協力推進会議の取組について述べる。

(i)上水道関連事業

 我が国の水道の漏水対策の実績は世界的にみて高い水準にある。これは、長寿命管の敷設、管網のブロック化、老朽管の更新等の管網リハビリ対策に加えて、漏水探知技術、管路補修技術(不断水工法)等を効果的に組み合わせることによって、無収水の割合を減らし、効果的・効率的な水供給が実現されているためである238。一般に中東各国の漏水率は20〜40%といわれているが、東京都の漏水率は3.3%であり239、水の有効利用の観点から、我が国が貢献できる余地は大きいと考えられる。

(ii)下水処理関連

 GCC諸国においては、排水処理に対する取組は、淡水化処理への取組ほどには進んでいない。例えば、サウジアラビアのジェッダには、長年にわたって投棄された下水によって水深15m、4,000万立方メートルにおよぶ下水湖が誕生している240。我が国は水の循環利用に優れており、特に工業分野において高い水生産性241を実現している(第1-2-6-74表)。GCC諸国は石油産業に過度に依存する産業構造からの脱却を目指し、産業の多角化を推進しており、特に製造業の育成に注力しているため、製造業を中心とする工業分野の水利用における我が国の技術やノウハウに期待が寄せられている。サウジアラビアの水電力省では、下水道網や排水処理施設の建設を進めつつあり、我が国としても協力を進め、事業機会を創出していくこ� �が重要である。


 

第1−2−6−74表 世界主要国における水生産性

(iii)中東水資源協力推進会議の取組について

 財団法人中東協力センターは、中東における水資源問題に対する我が国企業のビジネス展開を支援するため、官民で組織する「中東水資源協力推進会議(水資源会議)」を設立242し、主に技術協力やミッションの派遣・受入などの活動を推進している。

 例えば、水資源会議の活動に端を発し、カタールの西側に位置するドハーン(Dukhan)において、我が国の関係機関と民間企業がRO法243のデモンストレーションプラントを建設し、カタール水電力会社(Qatar Electricity & Water Company)とRO法による海水淡水化技術に関する共同研究を行っている。従来アラビア湾においては、水質環境の問題により、RO法による造水が困難と考えられてきた。しかしながら、我が国企業のRO膜の機能向上によって、RO法でも造水を行うことが可能となっている。当該研究は、その性能を実証することを目的としており、これまで順調に推移している。これによってRO法の信頼性を客観的に証明できれば、従来のMSF法にRO法を組み合わせることによって(ハイブリッドシステム)、同地域の造水コストの低減と省エネルギーに寄与することが期待されている。

(アフリカ諸国)

 アフリカにおける資源開発事業への参画は、我が国企業にとって大きなビジネスチャンスとなると考えられる。金融危機の影響により、海外の資源メジャー企業等は資金調達難に陥っているため、相対的に資金余力のある我が国企業にとって資源開発に参画するチャンスが増えていることが指摘されている244

 アフリカ諸国に対して我が国企業が提示できる優位性としては、パートナーとしての信用力、探鉱・開発の技術力、周辺インフラ開発の技術力、資金の出し手としてのファイナンス力、オフテイカー(資源の最終購買者)としての資源購買力、マーケティング力、開発事業のマネジメント力等が挙げられる(第1-2-6-75図)245


 

第1−2−6−75図 日本企業のパートナーとしての参画タイミングとアピール事項の整理246

 また、産業の多角化に取り組むアフリカ諸国の政府は、国内産業の高付加価値化につながるよう、製造業の参画と連携した提案を求めているため、我が国企業にとっては、資源開発事業との連携によって、より広い業種にわたってビジネスチャンスが創出されていくことが想定される。

 アフリカ経済は、消費市場としての発展も著しい。

 例えば、2007年には、アフリカの携帯電話の契約件数は、米国のそれを突破している(第1-2-6-76図)。

 

第1−2−6−76図 世界の携帯電話申込件数

 また、アフリカには30か国に49の百万人都市・都市圏が存在している。アフリカの人口は、国連の中位推計によれば、2050年には東アジアを抜いて世界人口の22%近くを占めると予想され、今後も都市化の進展と、それに伴う消費の多様化が期待される(第1-2-6-77図、第1-2-6-78表)。

 

第1−2−6−77図 世界の地域別人口推移

 

第1−2−6−78表 アフリカの人口百万人以上の都市圏

 さらに、近年、アフリカ諸国は複数の経済統合を進めており、これらの経済統合が実現すれば、域内流通が促され、巨大な消費市場が現出することが期待されている(第1-2-6-79図、第1-2-6-80図)。

 

第1−2−6−79図 アフリカの主な地域経済共同体247

 

第1−2−6−80図 アフリカの地域経済共同体別経済規模248

 広大な農地を有するアフリカは、農業生産性に課題を残しているものの、食料品生産拠点としての可能性が高まっていることを背景に、近年、中国やサウジアラビアなどアフリカにおいて積極的な農業関連投資を行う国が増えている(第1-2-6-81図)。

 

第1−2−6−81図 世界の地域別の農地面積割合

 例えば、サウジアラビアは総額53億ドルの「サウジアラビア農業海外投資基金」を設立し249、スーダンで1万117ヘクタールの農地を取得しているほか、南アフリカでも農地確保に向けた取組を計画している。

 中国もアフリカにおける農地確保の動きを進めている。中国企業による農場確保はすでにウガンダやメキシコなど各国で展開されているが、2008年春には国内企業による南米やアフリカへの農業投資をさらに促進する方針が打ち出されている250


 アフリカ諸国がこれらの投資を積極的に受け入れている背景には、自身の経済成長を加速させるために必要な資本やインフラが不足しているためとの指摘がなされている251。我が国の食料自給率は先進国の中で相対的に低く、アフリカ等海外への資本投下によって、食料の調達手段を多様化することには大きな意義がある。我が国企業の地雷除去機によって地雷が除去された土地が、その後農地として転用されたという事例もある。投資受入れ国の利益を損なうことなく、互恵的な関係の構築に取り組むことが重要である。

 電力の不足しているアフリカ諸国では新エネルギーに対する関心も高い。今後人口が増大するアフリカでは更なる電力需要の増大が見込まれ、これらの分野における我が国の高い技術力に対するアフリカ側の期待は高い。

 例えば、モロッコにおいては太陽光を利用した発電事業に高い関心が寄せられており、モロッコ政府が我が国に対して太陽光発電分野に関する共同研究の実施を求める動きも見られる。

 また、一部の国においては、原子力発電所の導入を視野に入れている。

 ナイジェリア政府は、原子力発電を推進し、2017年までに原子力発電による電力供給量を5000MWにする方針を公表している。この目標を達成するために、同政府は、向こう10年間で約2000人の若手専門家を育成していく方針であるとされている252

 ナミビアにおいても原子力発電所およびウラン加工施設の建設計画が進められている。ナミビア政府は、原子力規制枠組みを策定し、自国に埋蔵するウランを有効活用し、エネルギー自給率も向上させることを目指している253

 さらに、アフリカでは、現状の水力発電量はそのポテンシャルの5%程度しか利用しておらず、水力発電プロジェクトは今後大きく増大するとみられる。実際に、コンゴ民主共和国を流れるコンゴ河の水力を利用した大インガ・ダム(予定発電容量は39,500MW254)のフィージビリティ調査がアフリカ開発銀行を中心に行われている255

 アフリカ諸国では、鉄道建設計画も相次いでいる。

 タンザニア・ルワンダ・ブルンジの各国政府が多国間鉄道プロジェクトの開発について、了解覚書を締結している。この了解覚書では、これら3か国の都市とアフリカ中央回廊鉄道網及び、タンザニアのダルエスサラーム港を接続する計画となっている256。また、ナイジェリアでは、交通網開発プロジェクトが進展している。ナイジェリアのラゴスでは2路線の鉄道敷設が計画されており、2011年12月に予定されている操業開始後には1日あたり160万人の乗降客を見込んでいる257

 また、北アフリカ地域の国々は、サブ・サハラ地域の国々と比較して、一人当たりGDPの水準が高く、地中海を隔てて地理的に欧州に近いなどの特徴があり、製造業も徐々に発展してきている。以下、この北アフリカ地域の特徴についてより詳細に述べる。

 北アフリカ諸国では、これまで資源産業、農業が中心的な産業であり、産業の多角化が課題であった258。しかし、近年は製造業も発展の緒についている259。北アフリカ諸国では、東欧の労働コストの上昇等を背景として相対的に賃金水準が低いと見られることもこの傾向を後押ししていると考えられる。例えば、一般的な一般工職の賃金は、チェコで807ドルであるのに対し、カイロでは210ドルである(第1-2-6-82図)。また、モロッコ、チュニジア、エジプト、エチオピア、アルジェリアの5か国の機械類輸入額の推移を見ると、機械の輸入額が大幅に増大していることが分かり(第1-2-6-83図)、この点からも、製造業の裾野が徐々に拡大してきていることが示唆される。


 

第1−2−6−82表 東欧とアフリカの賃金水準の比較(月額)

 

第1−2−6−83図 アフリカ5か国の機械類輸入額の推移

 北アフリカ諸国では、ビジネス環境の整備も徐々に進展してきている。世銀のDoing Business in the Arab World 2009では、世界の181か国・地域の事業展開のしやすさをランク付けしているが、これによると、北アフリカ諸国では最高位のチュニジアでも72位と、世界的に評価が高いわけではないが260、例えば、モロッコが2008年から法人税を35%から30%に引き下げたり、チュニジアが2007年に有限責任会社の最低払込資本金制度を廃止したりするなど、事業環境は改善している。

 また、北アフリカ諸国は、欧米諸国とのFTAや、GAFTA261への取組によって、市場の一体化を図っており、FTA締結先国への輸出拠点としての魅力も高めている。

 このようなソフト面でのインフラ整備の他、各国ともハード面のインフラの整備にも努めている。例えば、モロッコは日本の円借款事業の効果もあって、既に高速道路の総延長は約850キロに達しており、15年までの計画ではさらに1,500キロまで延長する見通しである262。モロッコは、タンジェ港の拡充にも注力している。また、アルジェリア政府も国土の東西を横断する約1,200kmの高速道路を計画しており、このうち、東工区の約400kmを日本企業による共同企業体が2006年に落札し、現在建設を進めている263


コラム 10

世界的な金融危機下のドバイ〜ハブ機能の活用

 ドバイ首長国政府は、2009年2月に2百億ドルの政府債を発行し、うち百億ドルをUAEの中央銀行が引き受けると発表した。これにより、ドバイ政府は、対外債務の不履行という当面の危機は脱したとみられている。

 世界的な金融危機により、ドバイ経済は少なからぬ影響を受けている。既存の開発事業計画は進められつつも、計画中の大型案件の多くでは、今後の市場動向を見極める必要があるとの判断から、見直しが進められている264

 しかしながら、ドバイのこれまでの成長はあまりに急速であったため、今回の金融危機の影響でその急成長が減速したことで、正常化に向かうとの指摘もある。

 いずれにせよ、金融危機以前に構築された物流のハブとしての機能は健在である。

 ドバイは、年々そのコンテナ取扱量を増加させて世界第9位の位置づけを築いており、中東のみならず、アフリカ地域も含めた物流のハブ機能を構築しつつある(コラム第10-1図)。今後は、この物流ハブ機能の優位性を発揮することで、ドバイは更に発展を遂げていくことが期待されている。

 

コラム第10−1表 世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング

 我が国企業にとっても、広く中東・アフリカ地域に製品輸出や事業展開を図るにあたって、今後一層注目すべき拠点である。

 なお、ドバイ商工会議所が発表しているドバイの景況感指標を見ると、ドバイの貿易関連企業については、2009年も5.9と5.0を上回っており、金融危機後も若干ではあるが景気をポジティブに捉えていることが分かる(コラム第10-2図)。物流ハブとしてのドバイは金融危機の中にあっても底堅く推移していることがうかがえる。

 

コラム第10−2図 ドバイの貿易事業者の景況感の推移

 ドバイの物流ハブ機能の中心が海運と空輸の一体化を掲げたジュベル・アリ港であり、ドバイの数あるフリーゾーンの中でも最大のフリーゾーンが、ジュベル・アリ・フリーゾーンである265

 ジュベル・アリ・フリーゾーンの注目すべき機能として、海運と空輸の連携が挙げられる。

 一般的に、「Sea and Air」は、国際的な輸送において海上輸送(船)と空輸(飛行機)を結合して、両交通手段の特性を活用した複合輸送方式であり266、全行程を空輸するよりも低廉で、全行程を海上輸送するよりも高速性に優れる267。ドバイではSea and Airへの取組が進んでおり、ドバイ・ワールド・セントラル国際空港とジュベル・アリ港の連携によって、5時間以内で空港と港との間の貨物の積み替えが可能とされている268



 

コラム 11

各国の中東・アフリカ地域への進出状況

1.中国の進出状況

(1)中東地域への進出状況

 中国による中東地域への事業展開が進展している。例えば、サウジアラビアのアブドッラー国王は、2006年1月、即位後初の公式外国訪問でまず中国を訪れ、北京で胡錦涛主席と会談している。

 2006年に胡錦濤国家主席がサウジアラビアを訪問した際、中国は2010年迄にサウジアラビアとの輸出入額を400億ドルにまで拡大するとしていたが、2008年の中国とサウジアラビアの輸出入額は約419億ドルとなり、2年早く目標が達成されている。2008年度の中国とサウジアラビアとの貿易量は前年比約65%拡大した。中国からサウジアラビアへの輸出額は約108億ドルで前年比約38%増加し、中国のサウジアラビアからの輸入額は約311億ドルと前年比約77%増加した。中国のサウジアラビアからの原油輸入量269は2008年に約3,637万トンとなり、前年比で約38%と大幅に増加した。これは、中国の総輸入原油の約20%を占めている270

 また、サウジアラビアの国営石油会社サウジ・アラムコは、中国石油化工(シノペック)への原油供給量を2010年までに日量100万バレルに増やす契約を結んでおり、中国に対する最大の原油供給国となるものと見られる。一方、シノペックも、サウジ・アラムコ、エクソンモービルとの合弁事業として福建省の製油所の能力増強を進めており、また、山東省青島では、サウジアラビア産原油の精製を目的とするシノペックの製油所が新設され、2008年6月にサウジアラビアからの原油の入着が始まっている。石油化学の分野では、サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)がシノペックと合弁で、天津にエチレンとその誘導品を製造するプラントを新設するプロジェクトが計画されている271

(2)アフリカ地域への進出状況

 近年、中国はアフリカ諸国との政治的・経済的な結びつきを深めている。

 その最大の動機は、アフリカの豊富な天然資源の確保であるが、アフリカにおける中国の活動はそれに留まらず極めて幅広い領域に及んでいる。

〔1〕資源・建設分野への進出状況

 中国は、アフリカにおいて、エネルギーや鉱物等の資源確保に向けた動きを加速している。スーダンやリビア等に向けて石油企業の進出が多い272。鉄、銅、クロム等についても南アフリカ、ザンビア、ガボン、コンゴ民主共和国で中国企業が権益を獲得するなど資源確保の動きが見られる。

 また、建設分野においても中国は、廉価な資材価格をテコに、欧州勢が独占していたアフリカの建設市場への参入を積極的に進めている273。その結果、中国のアフリカにおける建設業の成約額は、2005年においてすでに最大の契約相手国であるフランスに迫る勢いである(コラム第11-1図)。


 

コラム第11−1図 アフリカの建設市場における国別総契約額の推移

〔2〕増大するヒト・モノ・カネの流通

 中国とアフリカの貿易・投資量は急速に拡大している。

 中国からアフリカへの輸出額は、2003年には約102億ドルであったが、2008年には約509億ドルと、5年間で約5倍に伸びている274

 また、アフリカから中国への輸入額は、2003年には約84億ドルであったが、2008年には約559億ドルへと、こちらは5年間で約7倍に伸びている。

 さらに、中国の輸出入に占めるアフリカ向けの輸出入の割合を見ると、その割合も年々高まってきており、アフリカからの原油の輸入等を背景に、中国とアフリカ諸国の貿易関係が深化してきていることがうかがえる(コラム第11-2図)。2008年には、中国の輸入量が増加する中で原油の占める割合は横ばいで推移しており、原油以外の品目についてもアフリカからの輸入が増加していることを示している。

 

コラム第11−2図 中国とアフリカの貿易関係の深化

 直接投資について見ると、中国とアフリカとの間の直接投資額も毎年増大を続けている(コラム第11-3図)。例えば、中国工商銀行は、2007年に、中国企業の海外投資では過去最大規模となる約6千2百億円を投じて南アフリカ共和国最大手のスタンダード銀行の株式20%を取得している。

 

コラム第11−3図 中国による対アフリカ直接投資の増大

 また、中国からアフリカへ送出される労働者数も増加している。アルジェリアとスーダンが大口の労働者送出先となっている(コラム第11-4表)。

 

コラム第11−4表 中国の国・地域別年間送出労働者数と年末在外労働者数

〔3〕中国企業のアフリカ進出によって我が国企業の競争環境も激化

 こうした中国によるアフリカ進出への影響を我が国企業がどのように捉えているかを確認する。

 JETROが実施している「在アフリカ日系企業実態調査275」によると、アフリカとの結びつきを強めている中国について、約半数の回答企業が「企業・製品との競合が激化し、自社にも影響を及ぼしている」と回答しており、現地における事業環境が厳しさを増していることがうかがわれる。

 一方で、約2割の回答企業が「拡大するビジネスチャンスと捉えている」と回答しており、競合が激化する中でも、事業機会の拡大を狙う我が国企業が一定程度存在していることが分かる。競合が激化していると回答した企業のうち、約7割の企業が、「中国からの輸入品との競合が激化した」と回答している。

 また、ビジネスチャンスと捉えていると回答した企業にその内容を尋ねる設問に対しては、「中国からの輸入ビジネスを今後拡大する」及び「アフリカから中国への輸出を今後拡大する」という回答が同数でそれぞれ36.4%を占めている。

〔4〕中国要人のアフリカ訪問

 近年、中国の要人によるアフリカ諸国訪問が相次いでいる。

 中国の胡錦涛国家主席は、2009年2月10日から、中東のサウジアラビアに加え、アフリカのマリ、セネガル、タンザニア、モーリシャスを訪問した。各訪問国において、胡錦涛国家主席は、多数の二国間協力協定に署名している。

 この他、温家宝首相も、2006年6月には7か国276を歴訪している。また、中国は、2006年11月に、国交のあるアフリカ48か国の首脳を北京に集めて第3回中国・アフリカ協力フォーラムを開催した。中国政府は同フォーラムにおいて、1)2009年までにアフリカ向け支援を2006年比倍増、2)今後3年間で30億ドルの優遇借款、20億ドルの優遇購買者信用を供与、3)中国企業によるアフリカへの投資促進のため、50億ドルの中国・アフリカ開発基金を設置4)アフリカの統合プロセスを支援するため、アフリカ連合の会議場を建設、5)2005年末に満期となった全ての無利子借款、後発開発途上国に対する借款の帳消し、6)中国と外交関係を有する後発開発途上国に対する輸入関税撤廃品目の拡大、7)以後3年間で、アフリカに貿易・経済協力地域を3� ��5か所設置、8)以後3年間で、15,000人のアフリカ人専門家の訓練や、アフリカ人留学生への奨学金枠の倍増等の人材育成プラン等を発表した277。第4回の中国・アフリカ協力フォーラムは、2009年第4四半期にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されることが予定されている。

2.他の新興国や先進国の状況

 中国以外の新興諸国も次々と、アフリカにおける事業を展開するなど、アフリカとの関係を強化している。

 アフリカに対しては、ロシアも事業展開に積極的である。2006年9月にはプーチン大統領が率いる経済使節団が南アフリカを訪問し、戦略的提携の対象としてレアメタルを取り上げるなど、鉱産分野にも積極的に介入している278。2008年6月には、ロシアのGazex-Suteraコンソーシアムは、ナイジェリア政府との間でニジェール河デルタ南東地域のガス田開発に係る覚書に署名している。ロシアのエネルギー担当大臣は、ナイジェリアの歴史ではじめてのガス資源開発に焦点を置くプロジェクトであり、ナイジェリアの経済発展にとって特別の意義を有すると強調している279

 また、ブラジルやインドとの関係構築も進んできている。ブラジルの金属メジャー、ヴァーレ社によるモザンビークの石炭、西アフリカでのボーキサイト開発など、権益獲得は進行している。2009年5月には、インドの輸出入銀行が、モザンビークにおける地方への電力普及に関するプロジェクトへ、3,000万ドルのクレジットラインを設定した。インドからモザンビークへのクレジットラインの設定はこれで5件目となる。これにより、本開発プロジェクト向けの資機材等のインドからモザンビークへの輸出が促進されるとみられる。

 先進国についてみると、北アフリカとのつながりが深かった欧州では、1995年以降、バルセロナ・プロセスによって政治・経済・文化の包括的なEU・地中海・地域協力パートナーシップを構築することを目指した対話が進められてきたが、この取組は、2008年より、地中海連合280の構築への取組として再出発することとなった。これは、EUと地中海沿岸諸国の政治的なレベルにおける戦略的な取組を促進することを狙いとしており、(1)地中海の水質浄化、(2)効率的な陸海運ネットワークの設立、(3)人的または自然上の災害からの市民の保護、(4)地中海太陽光発電計画、(5)スロヴェニアにおける欧州地中海大学の設立、(6)中小企業に主眼を置く地中海ビジネス開発構想の6つのプロジェクトに重点的に取り組む計画であ� ��281



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2012年3月1日 ... インドネシア2月CPIは3.56%上昇、市場予想下回る. ... ブラジル アルゼンチン チリ コロンビア ペルー メキシコ その他南米 ... 事前の市場予想平均3.80%上昇を 大きく下回ったほか、1月の上昇率3.65%と比べても縮小した。 ... インドネシア政府は 2月28日に燃料価格の引き上げを国会に提出。 ... モザンビーク政府、タイの石油開発 公社PTTEPのガス田権益引継ぎを支持2012/5/30 19:56; ベトナム中央銀行が今年3 度目の利下げ、インフレの落ち着きと景気下支えで2012/5/30 19:00 ... read more

インドの2月鉱工業生産は前年同月比4.1%増、市場予想下回る インド ...

2012年4月12日 ... インドの2月鉱工業生産は前年同月比4.1%増、市場予想下回る. ... インド政府、 ガソリン価格引き上げ反対のデモ受け譲歩か. 1. インドがミャンマー国内の道路整備へ 、インド-タイ間が16年までに直結. 1. インド国営航空エア・インディアの ... read more

6 資源・食料価格の影響を受ける新興国・資源国経済の課題

これまで旧ソ連諸国に対しては、欧州向けの輸出価格を大きく下回る価格で天然ガスを 提供していたが、その価格差も徐々に縮小する方向にある(第learn more表)。 第1-2- 6-13 ..... 準加盟国はチリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア。 177 ブラジルと ... read more

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