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JMAマネジメントレビュー, 2005年12月
事業の実践でシアーズを変えろ
首都ワシントンからポトマック川を渡ってバージニア州に入り、15分ほど車を走らせると「セブン・コーナーズ」という七叉路につく。その近くに小売り大手のシアーズがある。
シアーズは昨年11月、Kマートに買収され、現在はシアーズ・ホールディングという持ち株会社に入っているが、両企業とも社名は残したままだ。買収時は「業界10位のKマートが5位のシアーズを飲み込んだ」と話題になったが、多くの業界関係者はその買収に冷ややかな視線を向けた。買収によって業績が上向くか疑問視されていたからだ。
そんなことを考えながら「セブン・コーナーズ」のシアーズ店に足を踏み入れた。まず店内の薄暗さに幻滅した。23年前に初めてシアーズに行った時と大差ない。売り場の天井は高くて広々としているが、活気という言葉とは無縁だった。
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問題は店内の活気のなさだけではなかった。その日は新しい冷蔵庫を買う予定で出向いていた。何種類もの大型冷蔵庫が漠然と並んでいる。いくつかのモデルをチェックしていても周囲に店員はいなかった。こちらが店員を捜さなくてはいけない状況なのだ。アメリカの大手小売り店でよくあることだが、昨年の買収劇以来、サービスの向上を期待していたので裏切られた形となった。
買収劇を大局的に眺めると、両社の相互関係の構築によって売り場面積を広げ、間接費を減らすことで利益をあげられるとの見方があった。それによって業界最大手のウォルマートやディスカウントストアとして勢いのあるターゲットの顧客を引きつけられると見られていた。
シアーズは1世紀以上の歴史を誇る総合小売り店で、かつてはカタログ通販でその名を全米中にとどろかせた最大手である。だがウォルマートやホームデポなどの同業他社に抜かれて一時は低迷。だが、10年ほど前に再生して老舗の意地をみせていた。Kマートも02年、アメリカの小売り史上最大の負債を抱えて破綻したが会社更生法で蘇り、両社は「戦友」といえた。
企業は利益の最大化を行う方法
新会社のシアーズ・ホールディングズは、Kマートを再生させたエドワード・ランパート会長が全体を総括的にマネジメントする体制がとられている。金融業界でドライに資産運用してきた彼は、若干43歳。採算のとれない部門を切り売りする手法でKマートを再生させた。
彼にとってはまったく違う業界だが、自らがマーケティングとマーチャンダイジング、デザインなどを担当。しかし買収劇からほぼ1年たっても業績は思ったようにあがっていない。9月8日に発表された第2四半期の売り上げはシアーズとKマートとも低調に終わった。薄暗い店内で、決してサービスがいいとは言えないシアーズで積極的に買い物をしたいとは思わないことが業績低迷の一因だろう。
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そうした状況下、短期間で結果を出さざるを得ないのがアメリカの経営者である。そこで今秋、ランパート氏はマネジメントの布陣を小売り業界以外の人間で固めた。シアーズの最高経営責任者(CEO)アラン・レイシー氏をCEOから外し、以前食品業界にいたアイルウィン・ルイス氏をトップに据えた。さらに、自分が担当していたマーケティングをIBMのモーリーン・マグワイア氏に、顧客戦略を以前コンサルティング会社のマッキンゼーにいたコーウィン・ユリンスキー氏に任せるという大胆な人事を行った。
特にシアーズのCEOになったルイス氏は、外食大手のヤム!ブランズ(ハンバーガーチェーン店)の副店長からスタートした人物で、現場主義を重視するリーダーだ。それは顧客重視ということでもある。
「シアーズの店舗の中には土牢のようにひどい所がある。誰がそんなところで働きたいでしょう。そんな店舗に足を運びたいお客さまがいますか」
CEO就任後のスピーチでルイス氏はそう発言し、拍手喝さいを浴びた。暗く、サービスの悪い店舗があることは既知の事実だったのだ。ただそれを全米レベルで直そうとするCEOと企業文化がなかった。
ルイス氏は木曜から土曜まで全米の店舗を直接訪れて、社員教育を施す。さらに外食産業時代にマネージャー(部長)という名前を「コーチ」という呼び名に変更したことから、シアーズでも同じ呼び名を使用。そして店舗では接待を重視して顧客との時間をたっぷり取るという基本を徹底させている。
ビジネスウィーク誌は同氏を「事業の実践という意味で、彼以上に優れた男はいないし、類まれなリーダーシップの持ち主」と評しており、今後のルイス氏が「暗いシアーズ」を本当に変えていけるかが見ものである。
半年ほどして、またシアーズに戻ってみたいと思っている。
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